不動産クラウドファンディングの募集ページに並んでいる「想定利回り 6.0%」という数字。これは税引き前・年率の表示です。実際に銀行口座に振り込まれる金額とは、いくつかの点で違います。
不思議なことに、この「表示利回りと手取りのギャップ」を具体的な金額で計算している記事はほとんどありません。そこでこの記事では、10万円を投資したケースで、実際に残る金額を最後まで計算します。
結論を先に書きます。
- 想定利回り6%・運用12ヶ月に10万円 → 手取りは約4,775円(実質年利 約4.78%)
- 目減りの主因は源泉徴収20.42%。これは避けられません
- 見落とされがちなのが待機期間。ここを詰めないと、実質年利はさらに1%近く下がります
まず大前提です。募集ページの想定利回りは、次の意味で使われています。
- 年率である(運用期間が6ヶ月なら、受け取る額は年額のおよそ半分)
- 税引き前である(源泉徴収される前の金額に対する率)
- 予定である(確定した数字ではない)
このうち、運用期間による按分を誤解しているケースがよくあります。「利回り8%・運用3ヶ月」のファンドは、3ヶ月で8%が増えるのではありません。年率8%を3ヶ月分に按分した2%相当が受け取れる、という意味です。
当サイトが掲載している不動産特定共同事業型ファンド1,214件の運用期間を見ると、実際には次のように分布しています。
| 運用期間 | 件数の割合 |
|---|
| 3ヶ月未満 | 約2% |
| 3〜6ヶ月未満 | 約5% |
| 6〜12ヶ月未満 | 約34% |
| 12ヶ月ちょうど | 約44% |
| 13ヶ月以上 | 約15% |
12ヶ月ちょうどが最多で、6ヶ月がそれに次ぎます。運用期間が1年未満のファンドが4割以上あるため、「表示された利回りの数字がそのまま1回で手に入る」と考えていると、実際の入金額を見て驚くことになります。
匿名組合型の不動産クラウドファンディングの分配金は、支払時に**20.42%**が源泉徴収されます(所得税20%+復興特別所得税0.42%)。運営会社が天引きして納付するため、投資家の口座には差し引かれた後の金額が振り込まれます。
10万円を投資したときの計算は次のとおりです。
| 想定利回り | 運用期間 | 分配金(税引前) | 源泉徴収額 | 手取り |
|---|
| 4.0% | 12ヶ月 | 4,000円 | 816円 | 3,184円 |
| 6.0% | 12ヶ月 | 6,000円 | 1,225円 | 4,775円 |
| 8.0% | 12ヶ月 | 8,000円 | 1,633円 | 6,367円 |
| 10.0% | 12ヶ月 | 10,000円 | 2,042円 | 7,958円 |
| 6.0% | 6ヶ月 | 3,000円 | 612円 | 2,388円 |
| 6.0% | 3ヶ月 | 1,500円 | 306円 | 1,194円 |
税引後の年利に直すと、表示利回り × 0.7958 です。
- 表示 4% → 実質 約3.18%
- 表示 6% → 実質 約4.78%
- 表示 8% → 実質 約6.37%
- 表示 10% → 実質 約7.96%
つまり、表示利回りの約2割が税金で消えます。「利回り8%」と聞いて期待する金額と、実際の手取りには、この差があると考えておいてください。
なお、課税所得の水準によっては確定申告をすることで源泉徴収された税金の一部が戻ってくる場合があります。逆に、申告によって住民税の負担が発生することもあります。この判断は人によって変わるため、税金と確定申告の記事で条件を整理しています。
ここからが、ほとんど語られていない部分です。
不動産クラウドファンディングは、運用期間中だけ分配金が発生します。ところが投資家の資金は、それより長く拘束されるか、あるいは運用されないまま手元で待機します。
典型的なサイクルは次のようになります。
- 申込〜募集終了 — 申し込んだ時点で入金が必要なサービスが多く、この間の資金は動かせません
- 募集終了〜運用開始 — 運用開始日まで数日から数週間の空白があります
- 運用期間 — ここだけが分配の対象です
- 運用終了〜償還入金 — 償還日から実際の入金までにタイムラグがあります
- 入金〜次のファンドに投資 — 次の募集を待つ期間です
仮に、この前後の空白が合計で1.5ヶ月あったとします。運用期間12ヶ月のファンドに投資し続けた場合、1サイクルは13.5ヶ月です。
- 12ヶ月運用で手取り 4,775円(10万円あたり)
- しかし資金は13.5ヶ月拘束されている
- 年換算すると 4,775円 × 12 ÷ 13.5 = 約4,244円、つまり実質年利 約4.24%
表示6% → 税引後4.78% → 待機込み4.24%。 ここまで見て、はじめて他の運用先と同じ土俵で比較できます。
待機期間を短くする現実的な方法
- 運用期間の長いファンドを選ぶ — 同じ空白1.5ヶ月でも、運用が24ヶ月なら影響は半分以下になります。ただし資金が長く拘束される点はトレードオフです
- 償還時期をずらして複数のファンドを持つ — 一度に全額を1本に入れるより、資金が完全に遊ぶ時間が減ります
- 複数のサービスに口座を開いておく — 「投資したいのに募集がない」という空白を減らせます
逆に言えば、運用期間が極端に短いファンドは、待機期間の影響を強く受けます。「3ヶ月・利回り8%」は魅力的に見えますが、次の投資先がすぐ見つからなければ、年間で見た資金効率は表示ほど高くなりません。
ここまでの計算をまとめると、表示利回りから実質年利への変換はおおよそ次のようになります。
| 表示利回り | 税引後 | 待機1.5ヶ月込み(運用12ヶ月) | 待機1.5ヶ月込み(運用6ヶ月) |
|---|
| 4.0% | 3.18% | 約2.83% | 約2.55% |
| 6.0% | 4.78% | 約4.24% | 約3.82% |
| 8.0% | 6.37% | 約5.66% | 約5.09% |
| 10.0% | 7.96% | 約7.08% | 約6.37% |
※ 待機期間は投資スタイルによって大きく変わるため、あくまで試算です。キャンペーン・キャッシュバックや、確定申告による還付は考慮していません。
当サイト掲載の不動産特定共同事業型ファンドの平均想定利回りは6.48%です。これを上の換算に当てはめると、実質的には年4%台前半というのが、この商品の現実的な水準ということになります。
最後に、実質年利の観点から見落としやすい点を挙げておきます。
1. 早期償還は利回りを押し下げることがある
物件が予定より早く売却されると、運用期間が短縮されて償還されます。トータルの分配額は減り、さらに次の投資先を探す待機期間が発生します。「早く戻ってきてよかった」とは限りません。
2. 損失が出ても他の所得と相殺できない
雑所得の損失は、給与所得などとの損益通算ができません。プラスの年には課税され、マイナスの年には救済がない、という非対称があります。
3. 元本が減れば利回りの議論は意味を失う
実質年利4%を数年積み上げても、1回の元本毀損で吹き飛ぶ規模です。利回りの小数点以下を比べる前に、どんなリスクがあるのかと、優先劣後方式がどこまで守ってくれるのかを先に確認してください。
- 想定利回りは年率・税引き前・予定値。この3つを外して読むと計算が合いません
- 源泉徴収20.42%により、手取りは表示の約0.7958倍になります
- さらに待機期間を含めると、実質年利はもう一段下がります
- 表示6%は、現実的には年4%台前半の実質年利として比較するのが妥当です
数字の輪郭がつかめたら、次は自分の条件に合うファンドを探す段階です。