不動産クラウドファンディングの税金は、「分配金は雑所得、20.42%が源泉徴収、20万円以下なら申告不要」——ここまではどの解説にも書かれています。
問題は、その先です。実際に調べていくと、多くの解説記事が同じ2つの点を落としているか、誤っています。ひとつは住民税、もうひとつは「還付になるライン」です。
この記事では、国税庁のタックスアンサーと法令解釈通達、そして所得税法の条文に当たったうえで、実務で判断に必要なところまで整理します。
先に結論を3点。
- 分配金は雑所得・総合課税。20.42%の源泉徴収は「前払い」であって、それで課税関係が終わるわけではありません
- 「20万円以下なら申告不要」は所得税だけの話です。住民税には同じ規定がなく、別途申告が必要になります
- 申告で還付になるのは課税総所得金額330万円以下の人。よく書かれている「695万円未満なら還付」は不正確です
匿名組合型(多くの不動産クラウドファンディングが採用している形式)の分配金は、所得税基本通達36・37共-21により、原則として雑所得とされています。
雑所得は総合課税です。給与所得などと合算した課税総所得金額に、5%から45%の累進税率がかかります。上場株式の配当のように、源泉徴収だけで課税が完結する「源泉分離課税」ではありません。
ここを取り違えると、その後の判断がすべてずれます。「20.42%引かれているから終わり」ではなく、20.42%はいったん預けた前払いで、確定申告をすれば精算される、という関係です。
なお、匿名組合型と任意組合型では所得区分が変わります。仕組みの違いは不動産クラウドファンディングとは何かを解説した記事で説明しています。
| 匿名組合型 | 任意組合型 |
|---|
| 所得区分 | 雑所得 | 不動産所得 |
| 源泉徴収 | あり(20.42%) | なし |
| 不動産の所有権 | 持たない | 共有持分を持つ |
| 損失の他所得との通算 | できない | 一般の投資家は原則できない |
| 責任の範囲 | 出資額まで | 無限責任 |
現在、少額から投資できる不動産クラウドファンディングのほとんどは匿名組合型です。以下は匿名組合型を前提に説明します。
分配金の支払時に源泉徴収される20.42%の内訳は、**所得税20%+復興特別所得税0.42%**です。所得税法210条が匿名組合契約に基づく利益の分配について源泉徴収義務を定め、211条がその税率を20%と定めています。復興特別所得税は源泉所得税額の2.1%なので、20% × 1.021 = 20.42% という計算です。
源泉徴収をするのは投資家ではなく、分配金を支払う運営会社です。投資家の口座には、差し引かれたあとの金額が振り込まれます。
ここで見落とされやすいのが、何に対して20.42%がかかるのかという点です。
- 利益の分配 → 源泉徴収の対象
- 出資の払戻し(元本の償還) → 対象外
通達36・37共-21の注記が「出資の払戻しとして支払を受けるものを除く」と明記しています。運用終了時に元本10万円+分配金6,000円が戻ってくる場合、20.42%がかかるのは6,000円の部分だけです。10万6,000円の全額に課税されるわけではありません。
実際の手取り額がいくらになるかは、表示利回りと実質年利を計算した記事で具体的な金額を出しています。
税務署は分配金を把握しています
運営会社には「匿名組合契約等の利益の分配の支払調書」を税務署に提出する義務があります(所得税法225条)。提出が免除されるのは、同一人への年間支払金額が5万円以下の場合だけです。
つまり、年間5万円を超える分配を受けていれば、税務署はその事実を把握しています。「申告しなければ分からない」という前提で判断しないほうがよい、ということです。
所得税法121条1項1号にもとづくルールです。次の条件をすべて満たす場合にのみ、所得税の確定申告が不要になります。
- その年の給与等の金額が2,000万円以下であること
- 1か所から給与を受けており、その全部について源泉徴収または年末調整が済んでいること
- 給与所得・退職所得以外の所得の合計額が20万円以下であること
条件3の「所得の合計額」がよく誤解されるところです。
判定は「分配金の額」ではなく「所得の額」で、しかも源泉徴収される前の金額で行います。手取りベースではありません。さらに、他の雑所得も合算します。副業の収入、暗号資産の売却益、FXの利益、原稿料などがあれば、それらと合わせて20万円以下かどうかを見ます。
確定申告をするなら、20万円以下でも申告に含める
これはとくに重要です。国税庁のタックスアンサーNo.1900のQ&Aに、次の趣旨が明記されています。
この規定は確定申告を要しない場合について規定しているものであり、確定申告を行う場合にも、この20万円以下の所得を申告しなくてもよいという規定ではありません
つまり、別の理由で確定申告をする人は、20万円ルールを使えません。たとえば次のようなケースです。
- 医療費控除を受ける
- 住宅ローン控除の1年目
- ふるさと納税でワンストップ特例が使えない(6自治体以上、または確定申告をする)
- 上場株式の損益通算や繰越控除をする
- 個人事業主・フリーランスとして申告している
これらに当てはまる人は、分配金が1円でも申告に含める必要があります。
ここが、多くの解説記事が触れていない論点です。
住民税には「20万円以下なら申告不要」という規定がありません。
地方税法317条の2は住民税の申告義務を定めており、申告が免除されるのは「給与所得以外の所得を有しなかった者」などに限られます。分配金という給与以外の所得が1円でもあれば、この免除には当たりません。
ただし、所得税の確定申告をした場合は、住民税の申告書も提出したものとみなされます(地方税法317条の3)。そのため、実務上は次のように整理できます。
| あなたの状況 | 所得税の確定申告 | 住民税の申告 |
|---|
| 雑所得が20万円超 | 必要 | 確定申告で足りる |
| 雑所得が20万円以下・他に申告理由なし | 不要 | 別途必要 |
| 他の理由で確定申告をする | 必要(20万円以下も含める) | 確定申告で足りる |
住民税の所得割は標準税率10%です。分配金からは住民税が源泉徴収されていないため、申告後にあらためて納付することになります。
「所得税が申告不要だから税金の話は終わり」ではありません。実質的な税負担は、所得税・復興特別所得税の20.42%に住民税10%が乗るため、合計で30%を超えることがあるという理解が必要です。
なお、少額の場合の取り扱いには自治体ごとの条例・運用の違いがありえます。判断に迷う場合は、お住まいの市区町村の住民税担当窓口にご確認ください。
源泉徴収された20.42%と、自分の課税総所得金額(各種所得控除を差し引いたあとの金額)に対応する税率を比べると、申告の損得が分かります。
| 課税総所得金額 | 所得税率 | 復興税込み | 20.42%との差 | 判定 |
|---|
| 195万円以下 | 5% | 5.105% | −15.3pt | 還付 |
| 195万円超〜330万円以下 | 10% | 10.21% | −10.2pt | 還付 |
| 330万円超〜695万円以下 | 20% | 20.42% | ±0 | ほぼ変わらない |
| 695万円超〜900万円以下 | 23% | 23.483% | +3.1pt | 追加納税 |
| 900万円超〜1,800万円以下 | 33% | 33.693% | +13.3pt | 追加納税 |
| 1,800万円超 | 40%〜45% | 40.84%〜45.945% | +20.4pt〜 | 追加納税 |
ここから読み取れることは次のとおりです。
- 課税総所得金額330万円以下 → 源泉徴収されすぎているので、申告すれば還付
- 330万円超〜695万円以下 → 所得税としてはほぼプラスマイナスゼロ
- 695万円超 → 申告すると追加納税になる
よく見かける「課税所得695万円未満なら還付になる」という説明は、この330万〜695万のゾーンを還付側に含めてしまっている点で正確ではありません。このゾーンは限界税率が源泉徴収率とちょうど一致するため、還付は生じません。
もっとも還付額が大きくなりやすいのは、所得控除を使い切っていない人です。扶養の範囲内で働いている方、学生、年金収入が中心の方などは、源泉徴収された税額がまるごと戻ってくる可能性があります。
申告の「損」は所得税だけでは測れない
申告して所得が表に出ることで、次のような影響が出ることがあります。
- 配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除の判定
- 国民健康保険料、介護保険料などの算定
- 保育料や各種給付の所得制限
- 医療費控除の足切りライン(総所得金額等の5%)
「還付されるから申告したほうが得」と単純には決められません。ご自身の状況に照らして判断するか、税理士にご相談ください。
不動産クラウドファンディングで元本が毀損した場合の税務上の扱いは、投資家にとって不利です。
損益通算ができません。 所得税法69条が損益通算の対象としているのは、不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の4つだけです。雑所得は列挙されていません。給与所得と相殺して税金を減らす、ということはできません。
繰越控除もできません。 繰り越せる純損失は、そもそも損益通算の対象となる所得から生じたものに限られます。雑所得の損失は純損失にならないため、翌年以降に持ち越せません。
できるのは、同じ年の雑所得どうしの内部通算だけです。 他社の分配金や、副業・暗号資産などの総合課税の雑所得とは相殺できます。一方、上場株式の譲渡益やFXの利益は申告分離課税なので、相殺できません。
つまり、利益が出た年には課税され、損失が出た年には救済がないという非対称な構造になっています。この点は、リスクを検討する記事でも触れているとおり、投資判断に織り込んでおくべき要素です。
なお、実際に償還額が出資額を下回った場合に、その差額をどう申告するかについては、国税庁の明確な公表見解を確認できませんでした。該当する場合は税理士にご確認ください。
雑所得の金額は「総収入金額 − 必要経費」で計算するため、理屈のうえでは経費を差し引けます。投資判断に使ったパソコンや通信費を、業務に使った割合で按分して計上する、といった方法です。
ただし実務上、匿名組合型で計上できる直接的な経費はほとんどありません。振込手数料は事業者負担であることが多く、分配金も内枠で計算されています。
「経費を積んで20万円のラインを下回らせる」というテクニックは、現実にはあまり機能しません。また、按分の根拠が説明できない家事関連費は否認されるおそれがあります。
不動産クラウドファンディングは、NISAの対象外であり、特定口座でも管理できません。
NISAや特定口座の対象は、租税特別措置法が定める「上場株式等」に限られています。この定義は限定列挙で、上場株式、公募投資信託、国債・地方債などが並びますが、不動産特定共同事業契約にもとづく出資持分は含まれていません。
「源泉徴収ありの特定口座のように、申告不要にできる」ということもありません。申告不要にできるのは、前述の所得税法121条の条件を満たす場合だけです。
執筆時点で決まっている、今後の変更点を2つ挙げておきます。
1. 源泉徴収率20.42%は据え置き
2027年1月から防衛特別所得税が創設され、復興特別所得税の税率が2.1%から1.1%に引き下げられます。ただし、防衛特別所得税1%と合わせた合計は2.1%で変わらないため、源泉徴収の合計税率20.42%に変更はありません。計算方法も変わりません。
2. 任意組合型の相続税評価が変わります
2027年1月1日以後に相続などで取得する財産から、不動産特定共同事業契約にもとづく権利の目的となっている貸付用不動産は、課税時期における通常の取引価額で評価されることになります。これまで任意組合型の商品で語られてきた相続税評価の圧縮効果は、実質的になくなると見込まれます。相続対策を目的に検討している場合は、この点に注意が必要です。
- 分配金は雑所得・総合課税。源泉徴収20.42%は前払いであり、申告すれば精算されます
- 「20万円以下なら申告不要」は所得税だけの話。要件も3つあり、他の理由で申告する人は使えません
- 住民税には20万円ルールがありません。所得税が申告不要でも住民税の申告が必要です
- 申告で還付になるのは課税総所得金額330万円以下。330万〜695万はほぼ変わらず、695万超は追加納税です
- 損失は損益通算も繰越控除もできません。利益には課税、損失には救済なしという非対称があります
- NISA・特定口座の対象外です
本記事は法令・国税庁公表資料にもとづく一般的な整理であり、個別の税務判断ではありません。具体的な取り扱いはお住まいの地域の税務署、または税理士にご確認ください。
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