不動産クラウドファンディングの募集ページには、たいてい「優先劣後方式を採用しています」と書かれています。そして多くの解説記事は、「だから元本が守られやすいのです」で説明を終えてしまいます。
しかし投資判断に必要なのは、具体的に何%の下落まで耐えられるのかという数字です。この記事では、劣後出資の割合ごとに元本がどこまで守られ、どこから減り始めるのかを計算します。
先に結論です。
- 劣後出資が X% なら、物件価格が X%下落するまでは計算上、投資家の元本は維持されます
- それを超えると、下落分がそのまま投資家に来るのではなく、優先出資の割合で薄まって毀損します
- ただしこの仕組みは、事業者自身が破綻した場合には機能しません
優先劣後方式は、ひとつのファンドに2種類の出資を用意する仕組みです。
- 優先出資 — 投資家が出すお金。利益の分配も、元本の返還も先に受けられます
- 劣後出資 — 運営会社自身が出すお金。損失が出たときは先に減ります
物件を売却したときの代金は、まず優先出資者(投資家)の元本返還に充てられ、残った分が劣後出資者(運営会社)に回ります。損失が出れば、その順序が逆に働きます。
つまり優先劣後方式とは、リスクを消す仕組みではなく、損失を受け止める順番を契約で決めておく仕組みです。運営会社が自分の資金を先に危険にさらすことで、投資家との利害を一致させる意味もあります。
物件を1億円で取得し、劣後出資の割合を変えた場合を考えます。
たとえば劣後出資20%なら、投資家が8,000万円、運営会社が2,000万円を出しています。売却価格が8,000万円(20%下落)までなら、投資家の8,000万円は満額返せます。運営会社の2,000万円がすべて失われる形です。
では、それを超えたらどうなるか。売却価格が7,000万円(30%下落)だった場合、投資家に返せるのは7,000万円。出資した8,000万円に対して1,000万円の不足なので、**元本の毀損率は12.5%**です。物件は30%下がったのに、投資家の損失は12.5%で済んでいます。
この関係を一般化すると、次のようになります。
元本毀損率 = (下落率 − 劣後出資割合) ÷ (100% − 劣後出資割合)
これを表にしたものが下記です。表の中の数字は、投資した元本が何%減るかを示しています。
| 物件価格の下落率 | 劣後 5% | 劣後 10% | 劣後 20% | 劣後 30% |
|---|
| 5%下落 | 0% | 0% | 0% | 0% |
| 10%下落 | 5.3% | 0% | 0% | 0% |
| 20%下落 | 15.8% | 11.1% | 0% | 0% |
| 30%下落 | 26.3% | 22.2% | 12.5% | 0% |
| 40%下落 | 36.8% | 33.3% | 25.0% | 14.3% |
| 50%下落 | 47.4% | 44.4% | 37.5% | 28.6% |
読み取れることは2つあります。
1. 劣後出資割合までの下落は完全に吸収される
劣後10%なら10%下落まで、劣後30%なら30%下落まで、投資家の元本は計算上維持されます。ここが優先劣後方式のいちばんの価値です。
2. 超えたあとも、損失は薄まって伝わる
劣後30%のファンドで40%下落しても、投資家の毀損は14.3%です。物件価格の下落がそのまま投資家に来るわけではありません。緩衝材は、閾値を超えたあとも一定の役割を果たします。
では、何%の劣後があれば十分なのか
過去の不動産市況を見ると、短期間で20%を超える下落が起きることは、まれではあるものの実際に起きています。ひとつの目安として、劣後出資10%は最低限、20%以上あれば厚めと考える解説が多く見られます。
ただしこれは物件次第です。稼働中の都心の賃貸マンションと、地方の開発中の物件では、そもそも価格変動の幅が違います。劣後の厚さは、物件のリスクとセットで見るものであって、数字だけを比べても意味がありません。
劣後出資割合が高いファンドは安全性で有利ですが、無条件に良いわけではありません。
運営会社が自己資金を多く投じるということは、その分の利益も運営会社に配分されるということです。結果として、投資家に提示される想定利回りは低めになる傾向があります。
当サイトが掲載している不動産特定共同事業型ファンド1,214件を見ても、想定利回りは3%台から10%超まで大きく開いています。この差の一部は、こうしたリスクの引き受け方の違いから生まれています。
利回りの分布と、その背景にある事情は平均利回りを実データで検証した記事で分析しています。
ここからが重要です。優先劣後方式は万能ではありません。次の場面では、期待した働きをしません。
1. 事業者自身が破綻したとき
これが最も大きな穴です。
匿名組合契約にもとづく投資家の権利は、**事業者に対する契約上の権利(債権)**です。投資家が物件の所有権を持っているわけではありません。事業者が破綻すれば、投資家は原則として一般の債権者の一人として扱われることになります。
このとき、劣後出資は何の役にも立ちません。劣後出資は「物件を売った代金をどう分けるか」の順序を決めるものであって、事業者の倒産から投資家を隔離する仕組みではないからです。
だからこそ、劣後出資割合の前に、事業者そのものを見る必要があります。運営会社の資本金、事業年数、上場の有無、これまでの償還実績。こうした要素の確認方法は失敗しない選び方の記事で整理しています。
2. 賃料収入が想定を下回ったとき
優先劣後方式は、主に売却時の元本に関する仕組みです。運用期間中の分配金についても優先劣後が適用されるかどうかは、ファンドごとの契約によります。
空室が続いて賃料収入が想定を下回った場合、分配金が予定より少なくなることは十分にありえます。「元本は守られたが、分配はほとんどなかった」という結果も、仕組みのうえでは起こりえます。
マスターリース(賃料保証)が付いていれば緩和されますが、これも保証しているのは借り上げている会社自身です。その会社の支払能力を超える保証はできません。
3. そもそも劣後出資が薄い、または無いとき
すべてのファンドに優先劣後方式があるわけではありません。また、あっても劣後出資が数%にとどまるファンドもあります。
募集ページに「優先劣後方式採用」とだけ書かれていて、割合が明記されていない場合は、契約成立前書面で確認してください。割合が分からないまま出資するのは、緩衝材の厚さを知らずに出資するのと同じです。
- 劣後出資の割合は何%か — 募集ページまたは契約成立前書面に記載があります
- その割合は物件のリスクに見合っているか — 開発中・海外・売却益狙いなら、より厚い劣後が望ましいと考えられます
- 事業者自体は信頼できるか — 劣後出資は事業者の破綻には効きません。ここが最終的な防波堤です
- 優先劣後方式は、損失を受け止める順番を決める仕組みです
- 劣後出資が X% なら、X%の下落までは計算上、投資家の元本は維持されます
- 超えたあとも損失は薄まって伝わるため、緩衝材としての効果は残ります
- ただし事業者の破綻・賃料の不足には効きません。元本保証ではありません
- 劣後が厚いほど安全性は高まりますが、想定利回りは低くなる傾向があります
優先劣後方式でカバーされないリスクについては、「やめとけ」と言われる理由を検証した記事で整理しています。